← 記事一覧へ

BLOG

粗利3割の商品は、1割引きで利益が3割減る——値引きがこわい本当の理由

粗利3割の商品は、1割引きで利益が3割減る——値引きがこわい本当の理由

売上が落ちてきた。
そんなとき、「5%か10%くらい値引きして、お客さんを呼び戻そう」と考えたことはないだろうか。

私は以前、年商24億円ほどの会社の経営企画室で、社長の下で働いていた。
各店舗のミーティングで売上の落ちた店の話になると、決まってスタッフから出る提案が「少し値引きしてはどうでしょう」だった。
そのたびに、私は内心ひやひやしていた。
値引きは、思っているよりずっと重い判断だからだ。

粗利3割の商品は、1割引きで利益が約3割減る

利益も1割減の270円になる気がする

1000円の商品で、300円の利益が出ているとする。
ここでいう利益は「粗利」、つまり売値から、仕入れ値や材料費など1個ごとにかかるお金を引いた残りのことだ。
これを1割引きの900円で売る。
売値が1割下がるのだから、利益も1割減って270円になる。
そう思いがちだ。

実際は200円になる

実際には、仕入れ値や材料費は変わらない。
減るのは売値の100円分だけだ。
だから利益は、300円から100円を引いた200円になる。

項目値引き前1割引き後
売値1000円900円
1個ごとにかかるお金(仕入れ・材料費など)700円700円
1個あたりの利益(粗利)300円200円

割合で見ると、差がはっきりする

もとの利益300円を100%として、割合で比べてみる。
思い込みの270円は、10%減だ。
実際の200円は、約33%減になる。
売値は1割しか下げていないのに、利益は3割以上消えている。

利益もとの利益からの減り方
思い込み270円10%減
実際200円約33%減

画像

利益が薄い商売ほど、ダメージは大きい

同じ1割引きでも、もとの粗利率(売値のうち粗利が占める割合)によって、減り方はまるで違う。
粗利率が低い商品ほど、1割引きの打撃は大きくなる。

もとの粗利率1000円の商品の利益1割引き後の利益利益の減り方利益を保つのに必要な販売数の増え方
40%400円300円25%減約1.3倍
30%300円200円約33%減1.5倍
25%250円150円40%減約1.7倍
20%200円100円50%減2倍
15%150円50円約67%減3倍
10%100円0円100%減いくら売っても戻らない

この表は、売値が下がっても1個ごとにかかるお金(仕入れ・材料費など)は変わらない、という前提で計算している。
家賃や人件費は、値引きしてもしなくても同じだけかかり、この粗利の中から払うことになる。
実際には、梱包材や送料、決済の手数料のように、売る数に比例して増える費用もあり、その場合は必要な販売数がさらに増える。
だから値引きの得か損かは、売上ではなく、この「1個あたりの粗利」で決まる。

画像

自分の商品で計算できる、二つの式

ここまでの表は、二つの式で作れる。
自分の商品の粗利率と値引き幅を入れれば、すぐ答えが出る。

知りたいこと式例(粗利率30%・1割引き)
利益の減り方値引き幅 ÷ 粗利率10 ÷ 30 = 約33%減
利益を保つのに必要な販売数の増え方値引き幅 ÷(粗利率 − 値引き幅)10 ÷(30 − 10)= 10 ÷ 20 = 50%増(1.5倍)

値引き幅が粗利率と同じか、それより大きくなると、粗利はゼロ以下になる。
粗利率30%の商品を3割引きにすれば、1個売るごとに利益は0円だ。

戻すには、売る数を1.5倍、2倍に増やす必要がある

粗利率30%の商品なら、1割引きしたあと、もとの利益を取り戻すには、売れる数を1.5倍にしなければいけない。
粗利率20%なら2倍だ。
値引きで販売数が1.5倍、2倍に増えると本当に見込めるのか、先に考えておきたい。

見るのは、売上ではなく粗利

年商24億円と聞くと、そこそこ大きな会社に思える。
けれど値引きの判断に、年商はほとんど役に立たない。
見るべきなのは、1個売ったときに残る粗利だ。
この数字を見ないまま値引きを決めると、売上は戻ったのに、利益だけが減っていた、ということが起きる。

逆に、値上げは思ったより強い

値上げは、この計算を逆にしたものだ。
粗利率30%の商品を10%値上げすると、利益は300円から400円になる。
販売数が25%減っても、利益はもとと同じだ。
4人に1人のお客さんが離れても、利益がもとと変わらない場合がある。

値上げも、やる前に計算できる。
式と例は、1000円・粗利300円の商品を1割値上げして、1100円にする場合だ。

確かめること式例
値上げ後の利益もとの粗利 + 値上げ額300 + 100 = 400円
利益の増え方値上げ幅 ÷ 粗利率10 ÷ 30 = 約33%増
販売数が減ってもよい限度値上げ幅 ÷(粗利率 + 値上げ幅)10 ÷(30 + 10)= 25%減まで

値上げのあとは、実際の販売数がこの限度より減っていないかを見る。
限度の内側なら、値上げは成功だ。
限度を超えて減ったなら、少し値段を戻すことも考える。

ただし、値上げは自分の都合だけでやると、お客さんに受け入れてもらいにくい。
私は、世の中全体で価格UPへ動くタイミングこそが、値上げの好機だと考えている。
これは私の考えであり、業種によっても違う。

最終的には、純利益で確かめる

粗利の中から、固定費を払う

ここまで「粗利」で計算してきたが、会社に最後に残るのは、粗利から人件費や家賃などの固定費を払ったあとの利益、つまり純利益だ。
値引きで減る金額は、粗利で見ても純利益で見ても同じ(1000円を900円にすれば、どちらも100円減る)。
ただ、固定費が重い商売ほど、最終的な利益への響き方は大きくなる。

例:飲食店では、粗利は約14%減でも、利益はゼロになる

飲食店の費用構成の例として、金融庁の委託調査(日本生産性本部が作成した「業種別支援の着眼点」、2023年3月)に、売上に対して、材料費と人件費の合計(FLコスト)が60%、その他の経費が30%、営業利益が10%、という例が出ている。
FLコストの内訳は、材料費30%・人件費30%とする例が一般的な解説にある。
これをもとに、売上100円あたりで考えてみる。
実際の割合は、店によって違う。

項目値引き前1割引き後
売上100円90円
材料費30円30円
粗利70円60円(約14%減)
人件費・家賃などその他の経費60円60円
最終的に残る利益10円0円

粗利だけを見ると、70円が60円に減り、減り方は約14%(10 ÷ 70)で、そこまで大きく見えない。
ところが固定費の60円は変わらないので、最終的な利益は10円から0円になる。
粗利率が高い商売でも、固定費が重ければ、1割引きで利益が消えることがある。

例:固定費が先にかかる、小さな事業

オンラインで商品を売る、一人で始めた小さな事業を考える。
ツール代やサーバー代が毎月3万円かかり、これは売れても売れなくても変わらない。
商品が売れるたびに、決済の手数料が売上の3.6%ほどかかるとする(手数料率は、決済サービスや条件によって違う)。
月の売上が1万円の場合は、こうなる。

項目金額
売上10,000円
材料費(決済手数料3.6%)360円
粗利9,640円
固定費(ツール代・サーバー代など)30,000円
最終的な利益−20,360円(赤字)

最終的には赤字だが、粗利そのものはプラスだ。
つまり、1件売るごとに、ちゃんと利益は出ている。
足りないのは、固定費を払えるだけの売上だ。
赤字を抜ける売上は、次の式で出せる。

知りたいこと式例
黒字になる月の売上固定費 ÷ 粗利率30,000 ÷ 0.964 = 約31,100円

値引きを考えるときは、まず粗利で1個あたりの損得を見る。
そのうえで、最後に純利益で、会社として黒字を保てるかを確かめる。
この二段階で見れば、値引きの判断はぶれにくい。

値引きを決める前に、数字を一度だけ確かめる

値引きを考えたら、決める前に、次の三つだけ確かめてほしい。
式と例は、1000円・粗利300円の商品を1割引きにする場合だ。

確かめること式例
一つ目その商品の粗利率粗利 ÷ 売値300 ÷ 1000 = 30%
二つ目値引き後の利益もとの粗利 − 値引き額300 − 100 = 200円
三つ目利益を保つのに必要な販売数の増え方値引き幅 ÷(粗利率 − 値引き幅)10 ÷(30 − 10)= 50%増

この三つが分かれば、値引きが本当に得なのか、判断できる。
個人事業主や中小企業は、数字を一人で見るぶん、勢いで決めてしまいやすい。
だからこそ、この計算は、AIに手伝ってもらうのがちょうどいい。
「売値1000円、粗利300円、1割引きなら粗利はいくらか?もとの粗利を保つのに必要な販売数は」と聞けば、数秒で答えが出る。
数字はAIに計算させ、判断は自分でする。
その仕組みを、自分の手で作っていく。

計算式と用語を、PDFにまとめました

この記事で出てきた計算式と、経営の用語を、1冊のPDFにまとめました。
値引き・値上げ、損益分岐点、月額契約の解約率、資金繰りまで、式が48個、用語が35語です。
個人事業主を始める人向けに、例の数字つきで書いています。
登録は要りません。
下のボタンから、そのままダウンロードできます。

PDFをダウンロード(無料・登録なし)

ちなみに、このブログ記事も、パソコンの前に座らず、iPhoneに話しかけただけで作りました。

記事一覧へ →